ゴミ屋敷の中から１枚の「絵」を探せ

普段見積にお伺いする場合は、当然そのお宅での待ち合わせが普通です。しかし、近くのファミリーレストランに来るように指定されました。ファミリーレストランへ行くと、年配の方3人が来られていました。「実はゴミ屋敷なんです」「安心して下さい。我々は慣れています。どのような現場でも驚きませんよ」 あまりにも深刻な顔をされていたので、安心して頂こうと、私が今まで経験した壮絶なゴミ屋敷の話をしました。ご遺族様も緊張が少し和らいできた感じでした。
この3人はご兄弟で、長女様が亡くなったと聞きました。「実は姉が亡くなったのです。 姉は医者で生涯独身でした。頭がよく、何不自由なく過していました。ただ一つ欠点があるのです。それは…片付ができないのです」お医者さんになる方が、片付が出来ないなんて、その時は信じられませんでした。 そして現場へ同行しました。

鍵を開ける時に「横尾さん、ほんとに驚かないで下さいね！」と念を押されましたが「大丈夫ですよ！」と親指を立てました。玄関が開くと、ゴミ屋敷特有の台所の天井に向かって勾配の急な坂が出来ていました。 天井まで登りつめると、へやの広さを確認しなければなりませんが、天井までゴミが詰まっていて、確認できません。「まいったな…」と玄関に戻りました。 予め間取りをお伺いしてたので、ゴミの質を考慮しシミュレーションをして見積りました。

手順や作業日などの打ち合わせをしている時に、3人のご兄弟がお願いがあると仰ってきました。それは幼少の頃、ご家族で旅行した時に4人で書いた絵を捜し出して欲しいとの事でした。その願いの強さに驚きました。妹様は泣きながら私に頭を下げてくるのです。その真剣さに「承知しました！必ず見つけます！」と言いました…いや、言ってしまいました。正直、ゴミが天井にまで届く最強クラスのゴミ屋敷の中から、子供が描いた１枚の「絵」を探すなんて本当にできるのか？それ以前に、本当にあるのかも疑問です。しかし、安堵の表情を浮かべるご遺族様を見ていると「こういう不可能に近いことをやってこそ喜んで頂ける」と 俄然、燃えてきました。

その後、作業日を決めて別れました。 日が近づくにつれ、不安もよぎってきましたが…作業当日にスタッフ全員に「絵」を絶対探すようにと指示をしました。こういうのを見つけてこそ「専門業者の意義」があるのだと、スタッフを鼓舞。しかし、予想通り作業は困難を極めます。捜索するものが紙に書いた「絵」なので、それを確認するのに時間が掛かります。お客様はじっと作業を見守っておられました。
半分ぐらい撤去したでしょうか…スタッフがメモを持ってきました。「折れないようにじゅうたんの下へ」と書かれてありました。そのメモを見たご兄弟の方の期待は、ピークに達しました。しかし、じゅうたんをめくる時は、ゴミをすべて出した時です。楽観視はできません。引き続き捜索しながら作業を進めました。

ゴミの搬出が終わりましたが、「絵」は出てきませんでした…私は祈りました。「じゅうたんの下から出てきてくれ！！」 スタッフがめくると、きれいに保管？された「絵」が部屋の真ん中あたりにありました。ご兄弟の方が大声をだして喜んでくれました。しかし大声を出したかったのは私たちです。スタッフも安堵の表情と、これだけ探して最後に出てきた疲労感で、倒れそうになっていました。 「この絵には、思い出がありまして…」とご長男様が教えてくれました。ご兄弟は昔すごく仲がよかったそうです。そして家族旅行の時に、病気がちだったお母様を勇気付ける為に、4人で絵を描いたそうです。4人での作業なので上手ではありませんでしたが、ご兄弟にとっては特別な物だったようです。
「ちゃんと置いててくれたんだ、姉さん…」と妹様は泣いていました。晩年、痴呆症だったお姉様は、ご兄弟の近くに引越してきました。その時に、大事な「絵」を忘れないようにメモを残し、また見つけやすいように じゅうたんの下に置いていたのだと思います。我々にとっては「処分品」、ご遺族様にとっては「遺品」…いや「宝物」。ご遺族様の立場で作業をする大切さを改めて痛感しました。