ご主人の中の「遺品整理」と「心の整理」

我々メモリーズへの依頼は、一人暮らしの方が亡くなり、その後誰も住まなくなるため、家財道具すべてを搬出する遺品整理が圧倒的に多いです。しかし、ご夫婦で住んでいて、相手が亡くなった場合の遺品整理をすることがあります。ですが不思議なことに、奥様を亡くされ、ご主人様からのご依頼で奥様の遺品整理を手伝うことはあまりなく、ご主人様を亡くし、奥様のご依頼で遺品整理を手伝うことがほとんどです。単に男性は女性に比べて力があるので、自身である程度の整理はできると言うこともあるでしょう。でも、違うような気がするのです。奥様を亡くすと男性はその寂しさから、環境の変化に耐えられない方がけっこういるのです。奥様の使っていた物を処分する事が、できないのです。男性ってそういうのが弱いのだなあ..とよく感じます。

先日も亡くなられた奥様のご遺品を、ご主人と娘様立会いのもと、遺品整理させて頂きました。奥様を亡くされたご主人は、相当落ち込んでおられるようでした。一向に気持ちが前向きにならないお父様を心配した娘様が、メモリーズにご依頼して下さいました。嫁がれていた娘様は作業当日、現場となる実家に来られ立ち会われました。立ち会われた理由は、お父様に対してある疑念があったからだそうです。その疑念を表すかのように娘様は私に「父に、いるかいらないか訊いてはダメですよ！訊いたら必ず捨てるなって言いますから」とアドバイスをされました。とはいえ、第3者の私が勝手に持ち出すこともできないわけですが…故に娘様も立ち会われたようです。

寝室にはベッドが2つ並んでいました。「お父さん、お母さんのベッドは捨てるからね！」と娘様が仰います。元気のなかったご主人様が血相を変えて娘様に言い返します。「ダメだ！捨てるな！」 「お父さんは捨てるなばっかり！せっかく業者さんが来ているのに置いていても仕方がないでしょ！メモリーズさん、持って行って下さい！」と強い口調で仰いました。するとお父様は娘様の前に両膝をついて「母さんはな、ひょっとするとこの世を彷徨っているかもしれないんだよ。もしそうだったら休める所もないだろ。だからベッドはもう少し置いといてくれ…父さんはな、母さんがあの世へ行ったと思いたくないんだよ…幽霊でもいいから近くにいて欲しいんだよ。だから捨てないでくれ…」娘様の手を握ってすがりつくお父様の姿は、奥様に対する愛情であったり、後悔であったり、色んな思いが溢れた美しい姿でした。

両者の間に沈黙が続きます…娘様も困っています。そこで私から「今日はベッド以外を整理させて頂いて、お父様が納得された時にベッドだけを引き取りに来ると言うのはどうでしょうか？もちろん追加費用は要りませんし、その時はちゃんと供養もさせて頂きます」と提案させて頂きました。「そんな手間、いいんですか？」と娘様。お父様も、それならばと納得して頂き、その後は円滑に整理が進みました。
どこかのタイミングで「遺品整理」をすることは大切です。しかし「心の整理」は時期や時間を決めれる訳ではありません。昨今、妻や夫を亡くして、鬱病や認知症を発症するケースが増えています。特に認知症は65歳以上の10人に1人が患っているというデータもあります。高齢社会に伴い、遺品整理業や介護の様々なサービス、後見人制度など便利になってきてはいますが、高齢者自体を孤立させないような社会構造には、まったく進んでないような気がします。