たった一人で…深夜に孤独死現場の見積り

はっきり言って、私はちょっぴり怖がりです。自分でもこの仕事をしているのが不思議に思う時があります。そんな私に試練の時が来ました…葬儀社様よりご紹介頂いたのですが、ご遺族様が北陸地方にいるため、見積に立ち会えないとの事でした。ご遺族様は、特殊清掃に掛かる見積金額と、現場の部屋の写真を送る事を希望されていたので、デジカメを持って現場へ向かいました。
普段、孤独死に遭われたご遺族様は、見積時は本当に申し訳なさそうに接してくれます。「汚れてますけど、いいのですか？」「臭いがありますけど、大丈夫ですか？」と、ご依頼主様がいらっしゃる場合は、そんな時は内心ドキドキしながらも、「任せて下さい！」と強気です。 しかし一人となると、心細いものです。しかも、今は繁忙期で日中は現場が入っていたことと、立会いがなかったことで、見積りは夜することになりました…。

鍵を預かり、現場からご遺族様へ連絡を入れ、見積開始です。現場は14階建ての公営住宅です。ドアを開けるとハエが、おでこに頭突きをかましてきます。いつもの事なのですが「うわっ」と声をだしてしまいます。気を取り直して見積に入ります。写真も取りながら、部屋をを歩きまわっている時に ふと、気付いたことがありました。 臭いもあるのに、亡くなっていたと思われる場所がないのです。孤独死で死後2週間経過の現場と聞いていたので、通常は腐敗した体液が現場に残るはずです。いつしか見積より、それが気になって現場を探していました。
しかし、それらしい場所がどうしてもなかったのです。「比較的きれいな現場だな」と思い、見積を終えようとした時です。 ふと、トイレに目をやると、トイレのドアに養生テープがびっしり貼られていました。そうです、現場はトイレだったのです…。

トイレのドアに警察の方が、臭いが出てこないように 養生テープを貼っていました。 「ここか…写真も撮らないと…」深いため息が出ました。そして、トイレの扉にある小さなガラスの小窓が真っ黒な事に気付きました。近づいて行くと…そこにはハエの大群がガラスにへばり付いていたのです…鳥肌が止まりません。
見ないで帰ろうと正直思いましたが、ご遺族様に写真を送らなければなりません。ドアの向こうは数百匹のハエが飛んでいます。ドア越しにハエの飛ぶ音がよく聞こえます。「ドアを開けないと…」一人なので非常に心細いです。ご依頼主様が居るのと居ないのではこんなに違うのかと情けなくなります。しかし、このままドアを開けるとハエが部屋中を飛びまくるので何とかしなければなりません。私は殺虫剤を車に取りに戻り、養生テープをはがし、ドアを「カチャ」と開けます…ハエの飛ぶ音が一段と近くなり、顔がシワだらけになります。少しだけ隙間を開けて、殺虫剤を噴射します。3分ぐらい経ったでしょうか…殺虫剤が無くなったのと、ハエの飛ぶ音が静かになったのでドアを開けましたが、床はハエで真っ黒になっていました。そして、その下にどす黒い血と体液がそのままになっていました。結構苦しまれたのか、壁に血の手形もありました。
先程までビビッていましたが、現実の現場を目の前にすると「仕事モード」突入です。手を合わせて一礼し、写真を撮り、臭いが漏れないように処置をして、無事見積り作業完了です。例え一人で深夜に孤独死現場の見積り作業でも、私はプロの遺品整理人です。まだまだ心が弱いと感じ、もっとプロ意識を持たなければと反省した次第です。