自ら命を絶った現場の特殊清掃

電話は故人のお兄様からでした。「実は…弟が部屋で亡くなりまして…」「お任せ下さい」と一言の後、死後何日で発見されたか、臭いはどうか、近所からのクレームは、大家さんは何と仰っているかなど、要点をお伺いしていきます。「死後１ヶ月以上経っています…臭いで近隣からクレームも出ています。大家さんからは家賃１年分を補償しろと…」「失礼ですが、どのようなお亡くなり方をされたのでしょう？」「自殺です…」咄嗟にかなりやばい状況だなと察しました。

すぐ見積に行きましたが、お兄様は顔色が悪く、一緒に来られていたお母様は常に号泣していて、私に肩を震わせながら謝るばかりです。すごく小さくなって、すれ違う近隣の人にもしきりに頭を下げていました「すみません…すみません…」何度も、何度も…。 自ら親より先に逝くのは本当に親不孝です。
お兄様と一緒に部屋の中に入りました。自殺の場合は通常の孤独死の死臭より血生臭くなる特徴があります。「あぁ、結構血が流れているな」すぐに感じました。現場は…キッチン10畳の半分ぐらいが血の海です。その上、日数が経過しているのでドス黒くなり、一部は汚物が山のようになっていました。しかも、血の海の中で小さい蛆虫がウヨウヨと大量発生してしまっています。お兄様が「こんな状況でも清掃して頂けるのですか？」「もちろんです、ご安心下さい！」と笑顔で応えます。

どのようにきれいにするかは「企業秘密」にさせて頂きますが、ただその仕事振りを見ていたお兄様は「すごいですね！きれいになりますね！」と、興奮気味に驚いて喜んでくれましたが、すぐに「でも今後不動産屋さんにどう言われるかが心配です…」と現実にかえっていました。
同じ事故現場でも孤独死の場合は「故意」でなく亡くなっているので、今回のように綺麗に清掃、消臭、除菌などをして痕跡がなくなれば、補償問題にまでなることはほとんどありません。しかし、賃貸の部屋の中で自殺をすると、大家さんはなかなか許してくれません。ご近所の方も迷惑をし、ご遺族の方が一番困ることになります。方々から責め立てられ、ただただ謝罪するご遺族…そんな人間模様を、良くも悪くもたくさん見てきました。せっかく授かった命を自ら絶つ…社会問題となっているこの「自殺」を減らすことは出来ないものでしょうか？ 皆様も一緒に考えて頂けたら光栄です。