壮絶…割腹自殺現場の特殊清掃

ある日の深夜に、電話が鳴りました。「特殊清掃を…お願いしたいのですが」と動揺を隠せない声で話す依頼人。「死因は何ですか？」「自殺…です…でも、自殺があったことは知られたくない…です」と、今にも消え入りそうな小さな声です。「現場の状況次第ですが…どのような方法で自殺されたんでしょうか？」と尋ねると、「………割腹…自殺です…」依頼人の震える声からは、一刻も早く依頼したい様子が伺えました。しかし私は、あえてゆっくり話し、落ち着いてもらえるように声のトーンに気を使って寄り添いながら話を続けます。先ずは仕事のことをいったん頭から離して、グリーフケアに努めました。しばらく会話をし、状況をヒアリングして金額を伝え、明日の早朝から作業することになりました。

現場は、畳３畳分ぐらいの範囲に血が飛び散っていて、一箇所は血の海になっています。その横にはバーボンの瓶が転がっていて、余程の決意があって実行されたことが伺えました。しかし、自殺はその後のご遺族が大変です。そして、その行為は残されたご家族にとって物凄く残酷です。周りからは冷酷な言葉も時にはあるでしょう。平穏な生活が戻るまでに、どれだけの日数が必要でしょうか。
今回のような特殊なケースでは、心配するご依頼者様、ご遺族様のケアも大事です。相当ショックを受けておられますので、清掃、消毒、消臭の事は一切心配することないと伝えて、後でゆっくり形見分けができる事を伝えました。

早速、作業を始めます…今回のような割腹自殺や殺人現場などの特殊清掃を行う時に必要なことは「覚悟」を持つ事です。 大量の出血、時には内臓らしきものが残っている事もあります。用意する資材も大量のタオルが必要ですし、血液を分解する薬剤も通常の3倍ほど必要です。処置後の資材や残置物をトラックまで運ぶ際も、近隣住民に悟られないように、できるだけダンボールや黒い袋に入れて刺激を与えないように努めることも大事です。幸い発見が早く、臭いが室外の漏れていなかったので近隣住民の方が気付く前に作業を終えることが出来ました。作業後は本当に心から感謝されました。 その後は遺品整理の依頼も頂き、入電時の対応を褒めてくれたことがとても嬉しかったです。
仕事の事や、家族、人間関係など昨今ストレスになることも多いでしょう。 どうか思い詰めて孤独にならないよう周りの人がシグナルを察知して欲しいと願います。気持ちを共有したり、気持ちを打ち明けたりして「孤独ではない」事を認識すれば、 年間３万人を超える自殺者は減るのではないでしょうか。